借地権と相続

借地権には歴史がある

借地権は明治時代に生まれ、大正時代に借地法が制定されました。平成3年に借地借家法ができ、平成4年に施行されてからも、それ以前に締結された借地契約は、旧借地法が適用されます。

戦時中は、自分で土地建物を所有している人は限られた人だけでした。土地賃貸借契約期間が終了したときに、契約が即終了となると、住むところが無くなってしまう人が続出してしまいます。そのため、正当な事由が無い限りは、地主から、賃貸借契約を解除することができないという法改正があり、借地権はとても強い権利となりました。

その後戦争が終わり、建物を失った都市部の人たちは、地主さんの所有する土地を借りて建物を建てて生活を始めました。地主さん側もアパートを建てたりするような時代ではありませんでしたので、相続税が軽減されたり、自分のお金を使わずに地代が入るということで、一定のメリットがありました。

しかし現在は、事情が大きく変わりました。土地の地代は、住宅地では固定資産税の2~3倍程度となっており、昔の契約書であれば更新料も取れないこともあります。それに比べて、銀行から融資を受けて、アパートなどを建築して貸す方が、地主さんとしては収益性が高くなりました。

一方で借地人さんからすると、自分で土地を購入するよりも安い金額で土地を借りていられますので、借地を手放すよりも、そのまま住み続けることにメリットがあります。

地主さん、借地人さん双方が世代交代していく中で、お互いのメリットのすれ違いが大きくなり、また、関係性も疎遠になっていく中で、借地権に関するトラブルが増えるのは当然といえるかもしれません。

借地権を相続したら:原則、地主さんへは通知をすればよい

借地人さん側から相続発生時の手続きを見ていきます。まずは相続が発生したことを地主さんに伝えましょう。地主さんのご年齢にもよりますが、できれば顔を合わせて挨拶した方が、その後の話し合いがスムーズに進むことが多いです。すでに関係が悪い場合もあるかもしれませんが、ひとまず挨拶をすることで、状況が変化することもあるかと思います。

相続による借地権の権利移転は、特段地主さんの承諾は不要で、あえて契約書を作り直す必要もありません。権利確認のために契約書を作り直した方が安心という面はあるかもしれませんが、次回更新の時でもいいかと思います。地主さんには、相続手続きの結果、建物の名義がこうなりました、ということで、登記簿謄本のコピー等をお渡しし、書面等で通知すればよいかと思います。

ただし、地主さんごとの独自のルールが存在することが多いですので、なるべく地主さんのいうやり方に合わせてあげた方がスムーズかと思います。

法外な承諾料等を請求された場合は、不動産会社や弁護士に相談してみる必要がありますが、今後も長い付き合いになることが多いため、なるべく話し合いで解決したいところです。

 

わかりづらい借地権の評価額

また、借地権は売却が可能であるため、相続を機会に第三者に売却したいと考える方も多いかと思います。注意点として、今まで木造2階建ての家を建てて住むことを目的として土地を借りてきた場合、次回建替えるときに、鉄骨造の大型のアパートを建築するような計画は、地主さんの承諾が得にくいということが挙げられます。そのため、ただ単純に、土地の所有権時価を計算し、借地権割合をかけた金額で第三者に売却できるとは限らないということです。

地主さんは最終的に、自分が優先的に買い戻す介入権(優先交渉権)を行使でき、その際の金額は裁判所が決める金額(≒鑑定評価額)となります。地主さんからしたら、権利金等も支払われていない、低額の地代で借りていた土地の借地権を高額で売却する、つまり借地人さんだけが得をするのはおかしい、という気持ちもあるでしょうから、なるべく話し合いで物事を進め、お互いにメリットのある話にしたいところです。

底地を相続したら:情報を整理する

次に地主さん側に相続が発生した場合です。この場合も、特段書類を作り直さなければいけないということはありません。借地人さんに事情を早めに伝え、地代の支払い方法の変更などをお伝えしましょう。

借地人さんが複数いらっしゃる場合は、情報の整理が第一です。古い契約ですと、契約書自体が存在しないということも多くあります。相続などのタイミングが、借地人さんと話し合いの場を設けられるよい機会ですので、できれば不動産会社など、詳しい人に相談しながら、情報を整理していきましょう。

まったく状況がわからない場合、相続した土地の地番などの情報や、測量図等を持って、法務局に行くと、土地上に登記されている建物の情報(家屋番号)を教えてもらいながら、建物謄本を取得できます。そうすれば、まずは自分の土地の上の建物とその所有者の情報を得ることができます。建物図面を取得すれはおおよその位置も把握できます。

また、行政の建築審査課等で、建物を建築したときの建築計画概要書、台帳記載証明書等を取得することで、建物の情報がわかることもあります。

建物の情報が整理出来たら、次は契約関係の情報をエクセルシート等に整理するとよいと思います。借地権は20~30年ごとに更新されていることが多いので、一番最初の契約から、現在までのすべての契約書がそろっていれば、その時々の契約者の名前、日付、地代、更新料等の情報を整理します。

その土地ごとに、地代や建築する建物で、今までに起こった問題が読み解ければ、今後すべきことが見えてくるかと思います。

地主側に不利になってしまった旧法借地権

借地人さんの項目でも書きましたが、現代では借地で土地を第三者に貸しておいた方が経済的にメリットがあるのは、都心の大きなビルが建っているような一部の土地だけです。地代は住宅地であれば、固定資産税の2~3倍程度の地代ですので、土地賃貸借契約を解除できれば良いのですが、正当事由が無い限りは、地主さんから解除することはできません。

まずは、地代が相場よりも著しく低い金額になっていないかを確認し、書類に譲渡承諾料や更新料などのルールを記載することを目指すのが良いと思います。

借地は歴史的に見れば、もともとは地主側にもメリットがありましたが、今では一方的に地主が不利になってしまいました。借地借家法施行後も、昔の借地権は旧法が全面的に適用されるため、解決方法はほぼありません。時代にそぐわないため、徐々に見直される可能性もありますが、今のところしばらくは現状のままと思われます。どうしてもメリットが見通せない場合は、借地人さんや、第三者に土地を売却することも視野に入れる必要があるかもしれません。

 

まとめ

借地は契約期間も長く、通常の賃貸借契約と異なり、法的な問題も多くあります。借地人さんと地主さんの争いのほとんどは、立場の違いから生じる意見の不一致です。なるべく紛争は避けたいものの、両者の隔たりは年々大きくなる可能性があり、今までのように自分で解決することが難しくなることも考えられます。一人で管理しようとせず、不動産会社や弁護士など、詳しい相談役を見つけておけると良いと思います。