賃貸管理業界の囲い込み

賃貸にも囲い込みがある

私は不動産仲介大手の会社で11年半勤めてきましたが、その間はもっぱら売買仲介を担当し、主に個人のお客様の、不動産を売りたい、買いたいというご要望を受け、お手伝いをしてきました。

その後父が経営していた、地元密着の小企業へ移った理由はいくつかありますが、最も大きかったのは、もっと自社の売上よりも顧客視点に立った不動産仲介ができるのではないか、という思いでした。自分自身で会社を経営できれば、もう少し自分がしたい仕事ができるのではないか、と考えました。

しかし、中小企業の数が大半をしめるという不動産業界において、顧客視点の営業ができていないのは、大手企業だけでも、売買仲介業だけでもありませんでした。

不動産売買仲介業界では、何年か前に、「不動産の囲い込み」というのが問題となり、週刊誌にも取りざたされ、大手仲介会社においても問題となりました。

しかし、賃貸管理・仲介業も取り扱っている当社の経営に携わってから、不動産賃貸仲介業においても、まったく同じ問題が存在していると強く感じております。そして、少しは風通しの良くなった売買仲介と違い、賃貸仲介業界は、ほぼ全くと言ってよいほど改善していないように見受けられます。

また、顧客視点を重視し、すぐにお金にならない仕事でも取り組むことや、お客様の立場、考え方、感情を尊重し、寄り添うこと、などの対応は、賃貸管理業の方がなおさらできていないように感じています。

本稿では、賃貸管理業界の上記2点の問題について、私なりの意見を述べることで、賃貸管理会社選びの参考にしていただける内容を書きたいと思います。

賃貸不動産情報の囲い込みの背景

例えば、お客様が所有している賃貸用不動産の空室1室の、入居者募集業務をある不動産業者が請け負ったとします。通常依頼を受けた不動産会社は、募集情報をインターネットに掲載します。今時賃貸物件を新聞折込やタウン誌などの紙媒体で募集することはほぼなく、SUUMOやAT HOMEなどのポータルサイトや、大手不動産会社であれば自社サイトに掲載して募集することがほとんどです。

すでに賃貸物件をご所有されているオーナー様の多くは聞いたことがあるかもしれませんが、世の中には不動産会社だけが情報掲載、閲覧できるWEBサイトがあり、国土交通省の指定団体である不動産流通機構(通称REINS)のサイトがその代表です。

売買仲介の場合は、売主様から不動産仲介業者へ、媒介契約締結という形で依頼をし、媒介契約書の種類によって、少なくともREINSへの掲載が義務付けられています。しかし、賃貸の場合は、媒介契約を取り交わさないことも多く、専任媒介、専任専属媒介といった契約書を交わさないことはとても多いです。そのため、自社サイトにのみ掲載し、REINSに掲載しないことが、ルール違反にならないケースが多く存在します。

囲い込みの仕組み・・・管理会社と客付け業者

ちなみに、不動産賃貸業界は、オーナー様から賃貸管理の委託を受けてマネジメントを行う管理会社と、お部屋を借りたいお客様に様々な物件を紹介、室内を案内する客付け業者に大別されます。それぞれ得意分野が異なるため、比較的しっかりとすみわけができている業界だと思います。

管理会社は主にオーナー様のお手伝いをし、客付け業者はご入居者様のお手伝いをして、双方がそれぞれ報酬を受け取ります。なお、宅地建物取引業法では、借主様、貸主様双方合計で、家賃1か月分+消費税を超える仲介手数料を受け取ってはいけないことになっています。そのため、多くの場合、管理会社はオーナー様から広告料を家賃の1か月分いただくことが多いです。

しかし、自社で広告宣伝を行い、貸主様、借主様双方のお手伝いをすることで、2か月分の報酬を得ることができます。これを狙って、敢えてREINSやAT HOMEの不動産業者専用サイトに掲載せず、自社のホームページや、SUUMOなどの一般消費者向けサイトのみに掲載する不動産会社が一定数存在します。私の感覚では、このような会社はかなり多く、大手の不動産会社でも当たり前のようにやっているようです。

前述のように、売買仲介業においては、過去にこのような囲い込み行為が問題となったため、お客様から専任、または専属専任媒介契約にて販売依頼を受けた場合には、囲い込みが行われるケースはかなり少なくなりました。一方で賃貸仲介業では、媒介契約を締結せず募集を行うことも多く、まして、専任、または専属専任媒介契約を締結するケースは少ないため、オーナー様に適切な説明がなされず、囲い込みに近い行為が行われることが多いようです。

図解1 管理会社・客付け業者の2社が賃貸借契約に関わるケース

図解2 賃貸物件の囲い込み

インターネットが整備された現在においても、客付け業者による営業活動の力は強く、営業マンの力を借りながら物件探し、入居手続きを行うお客様がほとんどです。しっかり情報を公開し、一般消費者、不動産会社に関わらず、できる限り多くの人の目に触れやすくすることが、空室率を下げる一番良い方法だと思います。賃貸管理・募集を依頼する際には、必ず情報をオープンにしているか確認し、オープンにした状態をチェックさせてもらうように心がけた方が良いと思います。

顧客視点重視の対応

賃貸管理業は、とても細かい作業の積み重ねであり、賃貸仲介業者からすると薄利多売の世界です。そのため、オーナー様の細かなご希望にひとつひとつ答えていくよりも、効率化を重視する傾向が強まっているように感じます。

賃貸の物件にはトレンドがあり、ワンルームの物件一つをとっても、5年経つと流行の間取りや設備が移り変わっていきます。5年ほど前には、都市部では家賃を抑えるために、15㎡程度の間取りのワンルームがかなり増えましたが、現在は空室も増え始め、新型コロナの影響などで25㎡以上のお部屋に人気が集まっています。リモートワークに対応できるスペースをご希望される方や、特に女性からは、独立洗面台が欲しいという意見が多いようです。このようなトレンドに対応するには、室内設備の入れ替えが必要になることもありますが、コストのかかる話ですので、費用対効果がどこまで見込めるかは、立地、築年数、市況などによってまちまちです。

また、定期的に外壁や屋根等の大規模修繕も必要になりますが、これも専門家の意見が必要となります。

オーナー様にとって賃貸管理会社の営業マンとは、このような諸所の問題について、総合的にアドバイスをもらえるコンシェルジュのような存在であるべきですが、効率化を優先すると、会社の各部門が縦割りになり、総合的な知識や経験を持つ営業マンは少なくなっています。

顧客が要求するサービスがますます高まる中、不動産業界は古い体質が残っており、ITを使った中途半端なデジタル化、効率化をすることで、ますます他業界との格差が広がっているように感じます。

オーナー様側も自身で勉強して知識を得、目を養う必要があると思います。

まとめ

賃貸管理や、資産運用を任せる、またはアドバイスをもらう不動産会社を選ぶのは、かなりの労力が必要です。専門的な知識を多く要するため、一般消費者と不動産会社の知識差が大きいことが主な原因です。

しかし今はインターネットの普及により、一般消費者もいろいろな知識に手軽にアクセスでき、また、口コミなどから不動産会社の評判を調べられる時代になりました。

顧客目線で寄り添ってくれる会社なのか、報酬などの費用面だけではなく、サービスの内容についても、より高い質を求められる傾向は、今後もより強まっていくと考えられます。

何かお困りのことがあれば、地方や郊外で当社が直接管理のお手伝いができなくても、ご相談だけは乗れるかもしれません。お気軽にお問い合わせください。